• 2026年4月18日

【咽頭痛】喉の痛みに抗生剤は必要?エビデンスに基づいた急性咽頭炎の正しい治療


「喉が痛いから、念のため抗生剤を飲んでおきたい」

そう思われる患者さんは少なくありません。しかし、現在の医療において、急性咽頭炎に対する抗生剤の使用には明確な「国際ガイドライン」と「科学的根拠(エビデンス)」が存在します。

今回は、指針や最新の知見に基づき、なぜ抗生剤の使い分けが重要なのかを解説します。


1. 咽頭炎の8割以上は「ウイルス」が原因

厚生労働省の『抗微生物薬適正使用の手引き』によると、成人の急性咽頭炎の原因の80〜90%はウイルス性とされています。実際に私が研修医のときにみた患者さんのほとんどは抗生剤なしで治療可能でした。

  • 主な原因ウイルス: アデノウイルス、鼻ウイルス、コロナウイルスなど
  • 科学的事実: 「抗生剤はウイルスには一切効かない」

Cochrane Library(コクラン共同計画)による系統的レビューでも、ウイルス性咽頭炎に対する抗生剤の使用は、症状の改善を早める効果がほとんどないことが示されています。


2. 抗生剤が必要な「A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)」

一方で、唯一明確に抗生剤(主にペニシリン系)の投与が推奨されるのが、A群β溶血性連鎖球菌(GAS)による細菌性咽頭炎です。

なぜ溶連菌には抗生剤が必要なのか?

溶連菌を適切に治療しない場合、以下のような合併症のリスクがあるため、エビデンスに基づいて投与が推奨されます。

  • リウマチ熱(心臓や関節への影響)
  • 急性糸球体腎炎(腎機能への影響)
  • 周囲への感染拡大の防止

3. 医師が使う診断指標「Centorスコア(センター・スコア)」

当院では、患者さんの症状を客観的に評価するため、世界的に信頼されている臨床予測ルール「Centorスコア」やその修正版(McIsaacスコア)を参考にしています。

以下の4項目を確認し、点数が高い場合にのみ、細菌感染を疑い検査や処方を検討します。

  1. 38℃以上の発熱(1点)
  2. 咳がない(1点)
  3. 前頸部リンパ節の腫れ・痛み(1点)
  4. 扁桃の白苔(白い付着物)や腫れ(1点)

エビデンスの視点:

スコアが0〜1点の場合、溶連菌の可能性は極めて低く(5〜10%以下)、抗生剤の処方は原則として推奨されません(IDSA:米国感染症学会ガイドラインより)。


4. 「とりあえず抗生剤」がもたらすリスク

「効かなくても、飲んでおけば安心」という考えには、実は大きなリスクが伴います。

  • 薬剤耐性菌(AMR)の増加:不必要な抗生剤の使用は、将来、本当に重症な感染症にかかった時に薬が効かなくなる「耐性菌」を生む原因となります。
  • 副作用のリスク:抗生剤による下痢、腹痛、発疹、あるいは稀に重篤なショック症状(アナフィラキシー)を引き起こす可能性があります。
  • 腸内フローラの乱れ:有益な腸内細菌まで殺してしまい、免疫力の低下や別の感染症を招くことが報告されています。

当院の診療方針:適切な診断と説明(Shared Decision Making)

当院では、日本感染症学会および日本化学療法学会の『JAID/JSC感染症治療ガイドライン』に基づき、以下のステップで診療を行っています。

  1. 徹底した問診と身体診察: Centorスコア等を用いた臨床診断
  2. 迅速検査の活用: 必要な場合にのみ溶連菌迅速抗原検査を実施
  3. 納得のいく説明: 検査結果とガイドラインに基づき、なぜ抗生剤が必要(あるいは不要)なのかを丁寧にご説明します

まとめ:あなたの健康と未来を守るために

急性咽頭炎の多くは、対症療法(鎮痛薬や喉の安静、十分な水分補給)で自然に治癒します。

「喉が痛い=抗生剤」ではなく、「根拠に基づいた適切な治療」を受けることが、あなた自身の体、そして社会全体の健康を守ることにつながります。

気になる喉の痛みがある際は、エビデンスに基づいた診療を行う当院へお気軽にご相談ください。


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