- 2月 3, 2026
- 12月 26, 2025
【8年前の写真】研究医としての原点 ― 「なぜ?」を追求し続ける理由(2017年 日本Shock学会会長賞受賞に寄せて)|津かわもと救急・内科クリニック

先日、大学の研究室を整理していると、今から8年前の写真が出てきました。その写真は私の大学院生の恩師の島岡先生と私、そして当時の日本SHOCK学会の代表理事の平澤 博之先生との写真でした。
その写真をみて、改めて私の「研究に対する姿勢」をコラムに書きたいと思いました。
現在、私は2026年春の「津かわもと救急・内科クリニック」開業に向けて準備を進めていますが、私の医師としての姿勢は、勤務医時代から一貫しています。
それは、「臨床(患者さん)の疑問を研究(ベンチ)で解明し、再び臨床(患者さん)へ還元する」という姿勢です。
今回は、私の医師としての原点を知っていただくために、2017年に「日本Shock学会・会長賞」を受賞した際に執筆したエッセイを、当時の熱量のままご紹介したいと思います。
なぜ私が研究にこだわり続けるのか。その理由がここにあります。
救急現場での無力感から、研究という希望へ
私は医学部卒業後、約10年にわたり市中病院の救急・集中治療・麻酔分野の最前線で働いてきました。
救急医として急性期病院に勤務していると、どれだけ全力を尽くしても救えない命に直面することがあります。これまで多くの患者さんのお看取りに立ち会わせていただきました。
若い頃は、亡くなられる患者さんや、泣き崩れるご家族を前にして、
「何かもっとできることがあったのではないか?」
「患者さんは死ななくてよかったのではないか?」
と、自問自答を繰り返す日々でした。
経験を重ねるにつれ、単に自分を責めるだけでは医師として生き残れないことも学びましたが、一方で新たな想いが芽生えていきました。
「目の前の患者さんの死を、次の患者さんの命を救うために役立てられないか」
という想いです。
予想外の経過で患者さんが亡くなった時、「何かおかしい」と感じても、それを証明できなければ次の患者さんの予後を変えることはできません。そんな自分の力不足を嘆いていた時、私の医師人生を変える出会いがありました。
「Physician-Scientist(臨床研究医)」との出会い
それは、当時三重大学で分子病態学の教授を務められていた島岡教授との出会いです。先生はこう仰いました。
「患者さんが予期せず、もしくは理解できない病態で亡くなった時、そこに未知のメカニズムが隠れているのではないかと疑問に思って研究に取り組むのが医師の務めである」
この言葉に強く惹かれ、私は“Bench to Bedside and Back”を合言葉に、分子病態学の研究に飛び込みました。
私が受賞した研究テーマは、敗血症における「免疫麻痺」のメカニズムに、血液中の「細胞外小胞(エクソソームなど)」が関与しているのではないか、というものでした。
これは、「感染症自体は治ったはずなのに、なぜか体内で炎症がくすぶり続けるのはなぜか?」という、日々の救急診療で感じていた素朴な疑問からスタートした研究です。
研究を通じて学んだ「診療に不可欠な3つの視点」
基礎研究の世界に身を置いたことで、私は臨床医として非常に大切な3つのことを学びました。これらは現在、そしてこれからのクリニック診療でも私が大切にしている指針です。
1. 仮説検証型の思考(論理性)
「なんとなく薬を使ってみた」ではなく、「過去の知見では何が分かっていて、何が分かっていないのか」を整理し、仮説を立てて治療にあたること。臨床経験があるからこそ生まれる「疑問」を大切にし、論理的に解決する姿勢です。
2. コントロールの重要性(正確性)
研究では、実験が正しく行われているかを確認する「ポジティブコントロール(陽性対照)」と「ネガティブコントロール(陰性対照)」が不可欠です。これは臨床検査でも同じです。検査結果を正しく解釈し、誤診を防ぐためには、この「対照実験」の思考が欠かせません。(余談ですが、妻の妊娠確認検査薬を見た時も、真っ先にコントロールラインを確認してしまったほどです。)
3. 詳細な記録の力(誠実性)
実験ノートを詳細につけることは、単なる不正防止ではなく、実験の成功率を飛躍的に高めるために必要です。これは医師の「カルテ記載」と全く同じです。詳細で正確なカルテを書く医師は、診療の精度も高いといえます。
手間を惜しまず記録を残すことは、結果として患者さんの利益につながると確信しています。その実践として、当院では電子カルテAI音声入力(MEDISMA AI クラーク)を用いて、患者様との会話をすべてカルテに記録して診療に当たっています。
これからの「津かわもと救急・内科クリニック」へ
日本Shock学会は、臨床の疑問を基礎医学で解明しようとする医師が集まる稀有な学会です。そこで評価をいただいたことは、今の私の大きな自信となっています。
いま目の前にいる患者さんを救うために全力を尽くすこと。
そして、もしその場で解決できない疑問があれば、それを研究という形で未来へつなげ、次の患者さんを救う糧にすること。
この姿勢は、大学病院を離れ、地域医療の場に移っても変わりません。
日々の臨床の疑問に真摯に向き合い、三重県の医療に貢献できるクリニックでありたいと考えています。