• 12月 26, 2025
  • 12月 18, 2025

【咳が止まらない】「咳」で受診される患者さんへ:当院の診療方針とフォロー体制|津かわもと救急・内科クリニック

救急外来において「咳」は非常にありふれた主訴ですが、同時に「落とし穴」も潜んでいる症状です。大半は自然に軽快する上気道炎(風邪)などですが、その中には肺炎、喘息の悪化、COPDの急性増悪、百日咳、心不全といった、“見逃すと困る危険な咳”が混在しています。

そこで当院の救急外来では、以下の5つのステップを順不同ではなく、再現性高く進めることで診療の質を担保しています。

  1. 危険度の見極め
  2. 原因の当たり付け
  3. 必要最小限の検査
  4. 過不足ない治療
  5. フォロー設計

日本呼吸器学会の最新の咳嗽ガイドラインにおいても、この「症状→検査→診断→治療」という標準的な流れが重視されています。

(参考:一般社団法人日本呼吸器学会)

1) まず最優先:危険サイン(レッドフラッグ)の見極め

当院では来院時に、まず看護師さんによるバイタル測定(SpO₂、呼吸数、脈拍、血圧、体温、意識状態)を行い、症状の“赤信号”を確認します。これらは受診当日に精査や入院が必要になりやすい重要なサインです。

【注意すべき危険サイン(例)】

  • 呼吸困難感が強い、SpO₂(酸素飽和度)の低下、頻呼吸(呼吸が速い)
  • 胸痛がある、意識がはっきりしない、チアノーゼ(唇や爪が青紫になる)
  • 喀血(咳と同時に血を吐く)
  • 高齢、免疫不全、妊娠中、重い基礎疾患があり、全身状態が悪い
  • 肺炎が疑わしい経過(発熱+咳・痰などの呼吸器症状+聴診での異常音など)

救急の現場では、「様子見の上手さ」よりも、まずはこうした**「危険を確実に拾う堅実さ」**が優先されます。

2) 咳を“時間軸”で分ける

咳の診療では、発症してからの期間が重要な手がかりになります。ざっくりと「急性(数日〜)」「長引く咳(遷延性・慢性)」に分けることで、考えるべき病気(鑑別疾患)もフォロー方針も変わってきます。日本呼吸器学会のガイドラインでも、成人の急性咳嗽と遷延性・慢性咳嗽でフローチャートを分けて整理しています。

【当院の運用イメージ】

  • 急性(発症から3週間未満):感染症(上気道炎/急性気管支炎/肺炎)、喘息発作、COPD増悪、心不全などをまず整理します。
  • 長引く咳(3週間以上):咳喘息、上気道咳症候群(後鼻漏など)、胃食道逆流症、薬剤性(ACE阻害薬など)などを再評価の対象とします。

3) 検査は「やる/やらない」を先に決める

むやみに検査を行うのではなく、目的に応じて実施します。

画像検査(胸部X線など)

肺炎を疑う明確な根拠(症状・診察所見・バイタル異常)や、重症化リスクがある場合に撮影を検討します。肺炎の診断・治療は、日本呼吸器学会の成人肺炎ガイドライン(2024改訂)を軸に進めます。

ウイルス検査(インフルエンザ/COVID-19など)

地域の流行状況、発症日、患者さんの重症化リスク、そして検査結果が治療介入(抗ウイルス薬の使用や隔離判断)に影響するかどうかを考慮して選択します。

4) 治療方針:効くものを、必要な人にだけ

原因に応じて、過不足のない治療を目指します。

A. 典型的な「かぜ」「急性気管支炎」相当(重症感がない)

この層の患者さんには、抗菌薬(抗生物質)は原則不要です。英国のNICE(国立医療技術評価機構)のガイドラインでも、全身状態が悪くなく合併症リスクが高くない急性咳嗽には抗菌薬を勧めない方針が明確にされています。また、喘息などの基礎疾患がない限り、気管支拡張薬やステロイドをルーチンで使うことも推奨されていません。

当院では以下の対応を行います。

  • 予後説明(咳は数日〜数週間残り得ることの理解)
  • 症状緩和(咳止め、解熱鎮痛剤、十分な水分・睡眠の指導など個別に調整)
  • 「悪化時の戻り方(再受診の目安)」をセットで提示(後述)

B. 肺炎が疑わしい(または否定できない)

肺炎は“見逃さない側に倒す”ほうが安全です。治療は各種ガイドラインに沿って、重症度、基礎疾患、耐性菌リスクなどを考慮して決定します。

C. 喘息(咳喘息含む)を疑う/既往がある

喘息は「ゼーゼー・ヒューヒュー」といった喘鳴がなく、「咳だけ」で受診されることもあります。国際的な喘息ガイドラインであるGINAは、喘息治療において吸入ステロイド(ICS)を含む治療が重要であるという立場を一貫して示しています。

当院では、夜間や早朝の悪化、運動や冷気による悪化、アトピー歴などを手がかりにし、必要であれば早期の治療介入と再診を組み合わせます。

D. COPD(慢性閉塞性肺疾患)増悪を疑う

タバコで呼吸障害を引き起こされるCOPD増悪では、抗菌薬が有効になりやすい条件があります。国際的なGOLDレポートに基づき、膿性痰(黄色や緑色の痰)が増えるなどの症状パターンを踏まえて抗菌薬の適応を判断します。

E. 百日咳が疑わしい(長引く咳、発作性、周囲の流行など)

「最初は風邪っぽかったが、咳だけがしつこく残る、激しく咳き込む」といった場合は百日咳も疑います。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によれば、治療は発症初期の1〜2週間が最も有効であり、状況によっては検査結果を待たずに治療を検討することもあります。

5) 当院のフォロー設計

当院の救急外来では、初回の診療で「薬」だけ渡して終わりにはしません。なぜなら、咳は経過を見ることで初めて診断が確定することも多いからです。

【フォローの基本形】

  • 軽症(かぜ相当):原則は自宅療養+悪化時に受診してください。
  • 境界領域(肺炎を否定しきれない/喘息疑い/高リスク患者):状態や生活背景に合わせて、24〜72時間以内の再評価を提案します。
  • 長引く咳:急性期を過ぎても咳が続く場合は、咳嗽ガイドラインの枠組みで原因を再整理します。最初から全ての検査を行うのではなく、段階的に呼吸器専門医への受診につなげます。ただし、長引く咳は患者さんのエネルギーを奪うため、考えられる疾患群を考慮して、まずは止めることを重視しています。

【受診を急ぐべき悪化サイン(当院から患者さんに案内する症状例)】

帰宅後、お薬を飲んでいただいても咳がとまらない場合、そして以下の症状が出た場合は、ためらわずに再受診してください。

  • 息苦しさが増してきた、会話をするのがつらい
  • (測定できる場合)SpO₂の値が下がってきた
  • 高熱が続く、ぐったりしている、食事や水分が十分に取れない
  • 胸の痛み、血痰が出る、意識がぼんやりする
  • 喘息、COPD、心不全などの持病があり、普段と違う悪化を感じる

まとめ:当院が目指す「咳診療」の品質

「咳」の診療において最も本質的なことは、抗菌薬を出すか出さないかということよりも、「危険なサインを確実に拾い上げ、必要な人にだけ適切な治療を行い、悪化した場合の安全なルートを確保すること」と、まずは確実に咳を止めて、患者さんの不安を消すことです。私も医学生のときに、咳が止まらず救急外来に駆け込んだことを覚えています。

当院は、咳嗽・肺炎・喘息・COPDなどの主要なガイドラインに沿って、標準化された診療とフォロー体制を提供したいと考えています。

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