- 12月 31, 2025
- 12月 24, 2025
【小児頭部外傷】子供が頭を打って嘔吐した…受診目安は?救急医が教える危険なサイン|津かわもと救急・内科クリニック
小さなお子さんが転んだり、頭をぶつけたりすると、ご家族は強い不安に包まれます。 「すぐに病院に行くべき?」「様子を見ても大丈夫?」
そんな迷いに対し、救急医療の現場経験と医学的エビデンス(根拠)に基づき、正しい判断基準を解説します。
正月はいつものかかりつけのクリニックが空いていないため、頭をぶつけた小児患者さんが救命センターにはたくさん運ばれてきます。。。

小児の頭部外傷は「見た目が元気」なら大丈夫なことが多い
まず大前提として、小児が頭をぶつけても重篤な頭蓋内出血に至ることはまれです。 私が大学病院の救急外来で働いていた頃も、ご家族が心配して救急車を呼ばれるケースは多くありましたが、実際に緊急CTや処置が必要になるのは少数です。
大規模な研究においても、軽症頭部外傷(意識レベルが清明)の小児において、臨床的に重要な頭蓋内損傷(ciTBI)の頻度は1%未満と報告されています(Kuppermann et al., Lancet, 2009)。
通常の高さからの転倒・転落後に、以下の様子が見られれば、多くは軽症頭部外傷(minor head injury)に分類されます。
- すぐに泣いた
- 意識がはっきりしている
- 普段通りに動いている
- 機嫌が戻っている
これは、子供は体重が軽く衝撃エネルギーが小さいことや、頭蓋骨が柔軟で衝撃を吸収しやすいという特徴があるためです(Schunk et al., Pediatrics, 1996)。
ただし、「絶対に安心」というわけではありません。 重症例では、必ず何らかの「臨床サイン」が出現します。それを見逃さないことが重要です。
救急車を呼ぶ・受診すべき「危険なサイン」
頭蓋内出血や脳損傷を伴う重症例では、高頻度で以下の症状が認められます。 これらが一つでもあれば、ためらわずに救急要請または受診をしてください。 (※PECARN研究、NICEガイドラインに基づく)
⚠️ 直ちに受診が必要な症状
- 意識がぐったりしている 呼びかけに反応が鈍い、覚醒レベルが低い状態は危険なサインです。
- 泣き声が弱い・反応が乏しい 受傷直後に泣かない、ぼーっとしている場合は要注意です。
- 嘔吐を繰り返す 1回だけの嘔吐はよくありますが、何度も吐く場合は頭蓋内損傷リスクが上がります(Dayan et al., Ann Emerg Med, 2014)。
- 手足の動きに左右差がある 片側の動きが悪い、ふらつきがある等は神経学的異常を示唆します。
- 視線が合いにくい・眼球運動がおかしい
- けいれん(ひきつけ)が起きた
- 高所(約1m以上)からの落下 高い場所からの転落は、症状が軽く見えても慎重な評価が必要です。
私が初めて頭蓋内出血している小児頭部外傷患者さんを診たときは、意識がぐったりして、左手は動かすのですが、右手は全く動かしていませんでした。(左側の脳出血でした。)
ベッド・ソファからの転落はどう判断する?
家庭内で最も多い事故の一つが、ベッドやソファからの転落です。 研究では、通常のベッドの高さ(50–60cm)から落ちただけであれば、重篤な頭蓋内損傷に至ることは極めてまれとされています(Helfer et al., Pediatrics, 1977)。
しかし、落ちた後に「ぐったりしている」「嘔吐を繰り返す」「元気が戻らない」といった症状がある場合は、高さに関わらず受診を推奨します。
当院の方針:不要なCT検査は撮りません
「心配だからとりあえずCTを撮ってほしい」という親御さんのお気持ちは痛いほど分かります。 しかし、小児頭部CTには被ばくのリスクに加え、「CT室でお母さんと離れ離れになる」というお子さんにとっての大きな不安・ストレスも存在します。
そのため、津かわもと救急・内科クリニックでは、PECARNルールを中心とした国際ガイドラインに基づき、厳格に判断します。
1. リスクが高い場合
迷わずCTを実施します。
【症状の例】
- 意識レベルの低下、または変動がある
- 頭蓋骨骨折の疑いがある
- 意識消失があった
- 大きな皮下血腫(たんこぶ)がある
- 親御さんからみて「いつもと明らかに様子が違う」
- 反復する嘔吐、激しい頭痛
2. 低リスクの場合
CTは撮らずに当院外来もしくはご自宅で経過観察を行います。
【症状の例】
- 上記のような危険な症状が1つもない場合
3. 中間リスクの場合(これが一番迷います。)
症状と経過を重視して慎重に判断します。 ご両親の希望もしっかりとお聞きしながら、CTを撮るべきか、経過観察にするか、対応を一緒に考えます。
これらは、お子さんの安全性と、現在の医学的妥当性の両立を目的としています。
CTを撮らない場合の安全管理
CT不要と判断した場合でも、「何もしない」わけではありません。 頭蓋内損傷の多くは受傷後数時間以内に症状が出現することが分かっています(Quayle et al., Pediatrics, 1997)。 そのため、外来での観察や、ご自宅で注意深く見ていただくポイントを具体的に説明いたします。
MRIが必要なケース
CTで異常がなくても、症状が長引く場合や神経学的な異常が続く場合は、MRI検査を検討します。 MRIは被ばくがなく、微細な脳挫傷などの検出に有用です(Gentry et al., Radiology, 1988)。
家庭でできる応急処置(推奨事項)
受診するほどではないけれど、こぶができた時などの家庭でのケア方法は以下の通りです。
- 冷却(冷やす) 腫れを抑えるための基本対応です。保冷剤などをタオルで巻いて当ててください。
- 安静にする 激しい運動は避け、静かに過ごしましょう。脳震盪後の悪化予防になります。
- 食事について 嘔吐がなければ、通常通り食事をとって構いません。
- 【重要】揺さぶらない 特に乳幼児の場合、あやすつもりでも激しく揺さぶることは避けてください(揺さぶられ症候群の危険回避)。(AAP Policy Statement)
まとめ:不安な時は「念のため」の受診で大丈夫です
小児頭部外傷は、医学的には「重症例は少なく、重症例には必ずサインがある」ことが分かっています。 しかし、親御さんにとっては、判断に迷う時間そのものが一番のストレスです。
「こんなことで受診していいのかな?」と迷う必要はありません。 心配な時は、どうぞ「念のため」受診してください。
津かわもと救急・内科クリニックでは、「念のため」受診された患者さんに安心を与えられるように、科学的根拠に基づき、「安心」と「安全」を両立させた診療を患者さんそしてご両親と相談しながら行います。