• 2026年8月13日
  • 2026年7月29日

ヘルパンギーナと手足口病はどう違う? —「夏かぜ」を見分けるポイントと、家庭でのケア


いま、三重県で何が起きているか

三重県感染症情報センターによると、手足口病は2026年第30週(7月20日〜26日)の小児科定点あたり報告数が 7.24人。国が警報レベルの目安とする「5人」を大きく超えた状態が続いています。ヘルパンギーナも第29週に定点あたり3.17人と前週の約2.3倍に増え、県内では夏型ウイルス感染症が同時に立ち上がっている局面です。

参考までに、三重県の手足口病は2024年に過去最大規模(定点あたり年間211.9人)の流行を経験しています。今年も8月にかけて警戒が必要な水準です。

外来では「口内炎ができて熱が出た」「手に発疹が出た」というお子さんの受診が連日続いています。この2つの病気は兄弟のように似ていて、しかし少しだけ違うため、その違いと、ご家庭で本当に見るべきポイントを整理しました。


まず結論:この2つは「同じウイルス一族」の兄弟です

ヘルパンギーナも手足口病も、原因はエンテロウイルス属(コクサッキーウイルスA群、エンテロウイルス71型など)です。つまり、まったく別の病気ではなく、同じウイルスの仲間が、どこに水疱を出すかでつけられた名前の違いに近いのです。

実際、同じコクサッキーウイルスA群に感染しても、ある子はヘルパンギーナ、別の子は手足口病の形をとることがあります。診断名が違っても、治療も、家庭でのケアも、ほぼ同じです。


一目でわかる比較表

ヘルパンギーナ手足口病
主な原因ウイルスコクサッキーウイルスA群(A2〜A10型など)コクサッキーA16型、エンテロウイルス71型、近年はコクサッキーA6型
発熱突然の高熱(38〜40℃)が典型的。2〜4日続く熱は出ないか、微熱程度のことが多い(3人に1人程度)
発疹の場所口の奥だけ(軟口蓋・口蓋弓)に小さな水疱→潰瘍口の中+手のひら・足の裏・おしり・ひざ
のどの痛み強い中等度
潜伏期間2〜4日3〜5日
好発年齢5歳以下が9割以上、最多は1歳1〜4歳中心。学童・大人にもみられる
流行のピーク6〜7月6〜7月(近年は秋冬にもみられる)
経過3〜6日で軽快7〜10日で自然に消退

見分けの最大のコツ

「熱が高くて、口の奥だけが痛い」→ ヘルパンギーナ 「熱はそこそこで、手足にも発疹がある」→ 手足口病

ヘルパンギーナの水疱はのどの奥(軟口蓋から口蓋弓)に限局するのが特徴で、唇の裏や舌の先にできる普通の口内炎とは分布が異なります。一方、手足口病の口内病変は前方(舌・頬の内側)にも広がります。


手足口病で最近増えている「コクサッキーA6型」の特徴

ここ10年ほど、従来のA16型・EV71型に加えてコクサッキーA6型(CA6)による流行が世界的に目立っています。この型は「教科書どおりでない」ため、保護者の方が別の病気を心配して受診されることが少なくありません。

  • 水疱が大きく、数も多い。手足だけでなく体幹・顔・四肢に広がる
  • アトピー性皮膚炎の部位に集中して出ることがあり、”eczema coxsackium” と呼ばれます(Mathes EF, et al. Pediatrics. 2013;132:e149-157)
  • 治って1〜2か月後に爪が根元から剥がれる「爪甲脱落症(onychomadesis)」を起こすことがある(Osterback R, et al. Emerg Infect Dis. 2009;15:1485-1488)

爪が浮いてきた・剥がれたというご相談は、夏の手足口病から1〜2か月後の秋に増えます。これは後遺症ではなく、新しい爪が下から生えてきており、自然に元に戻ります。切除などの処置は不要です。


いちばん大切なのは「見分け」より「脱水」

正直に申し上げると、外来で病名を確定させることの臨床的な意義は限られています。どちらもウイルス感染症で、抗ウイルス薬もワクチンもなく、治療は対症療法だからです。抗菌薬(抗生物質)は効きません。

代わりに、ご家庭で本当に注意していただきたいのは脱水です。

口の中の潰瘍が痛むため、お子さんは飲むこと自体を拒否します。夏の高温と相まって、脱水は数時間単位で進行します。実際、この2疾患で入院に至る最も多い理由が脱水です。

しみにくい・飲みやすいもの

  • 冷たい麦茶、経口補水液(OS-1など)、牛乳、乳酸菌飲料
  • プリン、ゼリー、アイスクリーム、冷ましたおかゆ・うどん、豆腐、茶碗蒸し
  • 常温より、少し冷たいほうが痛みを感じにくい

避けたほうがよいもの

  • オレンジジュース・トマトジュースなど酸味の強いもの(強くしみます)
  • 熱いもの、塩辛いもの、香辛料、せんべいなど硬いもの

痛みが強くて何も飲めないときは、受診の30分ほど前に解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)を使うと飲めるようになることがあります。「食べられなくても、飲めていればまず大丈夫」——これが目安です。


こんなときは受診を(当日中)

  • 半日以上、水分がとれない/おしっこが半日以上出ない
  • 唇や舌が乾いている、泣いても涙が出ない、機嫌が悪くぐったりしている
  • 発熱が2日以上続く
  • 頭痛や嘔吐を繰り返す

すぐに受診・救急を(夜間でも)

  • けいれんを起こした
  • 呼びかけへの反応が鈍い、意識がぼんやりしている
  • 呼吸が速い・苦しそう
  • 手足がピクピクする(ミオクローヌス様の動き)、ふらついて歩けない

最後の項目は、エンテロウイルス71型(EV71)による無菌性髄膜炎・脳幹脳炎の初期サインとして知られています(Ooi MH, et al. Lancet Neurol. 2010;9:1097-1105)。頻度は非常に低いものの、手足口病が流行している時期には念頭に置く価値があります。ヘルパンギーナでも、まれに無菌性髄膜炎や心筋炎を合併することがあります。


保育園・学校はいつから行ける?

ヘルパンギーナ・手足口病はいずれも学校保健安全法の「第三種のその他の感染症」にあたり、インフルエンザのような一律の出席停止期間は定められていません

判断の目安は、

① 熱が下がっている ② 口の痛みがやわらぎ、普段どおり食事がとれる ③ 全身状態が安定している

の3点です。

「発疹が完全に消えるまで休ませるべきか」というご質問をよくいただきますが、その必要はありません。回復後も便の中には2〜4週間ウイルスが排出され続けるため、症状が消えるまで登園を制限しても感染拡大の防止効果は限定的です。それよりも、日常的な手洗いを続けることのほうがはるかに有効です。

登園にあたって書類が必要な場合は、園の様式に沿って当院で対応いたします。


大人もかかります(そして、しばしば重い)

「子どもの病気」と思われがちですが、看病するご家族への感染は珍しくありません。しかも大人のほうが症状が強く出る傾向があります。

  • のどの痛みが激烈で、水も飲めないほどになることがある
  • 手のひら・足の裏の水疱が痛く、歩行や手作業に支障が出る
  • 高熱、強い倦怠感、筋肉痛を伴う

成人の場合、初期には咽頭炎や溶連菌感染症との区別がつきにくいこともあります。お子さんの発症から数日後にご自身ののどが痛くなった場合は、この可能性をお伝えいただくと診断がスムーズです。


予防のポイント:アルコール消毒だけでは足りません

エンテロウイルスはエンベロープを持たないウイルスで、アルコール消毒の効きが悪いという特徴があります。ノロウイルスと同じ性質です。

  • 石けんと流水による手洗いを徹底する(これが最も重要)
  • おむつ交換のあとは必ず手洗い。ウイルスは便中に長く排出されます
  • タオルの共用をやめる(ペーパータオルへの切り替えが有効)
  • 環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤の希釈液)を用いる

ワクチンはありません。だからこそ、この基本が効きます。


当院での対応

津かわもと救急・内科クリニックでは、日曜日も含めて発熱・発疹のお子さん、そして看病中に発症された保護者の方の診療を行っています。

  • 脱水の程度の評価と、必要に応じた点滴(補液)
  • 溶連菌・アデノウイルスなど、鑑別が必要な感染症の迅速検査
  • 重症化サインの評価と、必要時の小児科・高次医療機関へのご紹介
  • 登園・登校に関する書類の作成

「病名を確定させること」よりも、「水分がとれているか、重症化のサインがないか」を診るのが私たちの役割です。判断に迷われたら、遠慮なくご相談ください。


参考情報

  • 三重県感染症情報センター「手足口病」「ヘルパンギーナ」2026年第30週報告
  • 国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト「手足口病」「ヘルパンギーナ」
  • 厚生労働省「手足口病に関するQ&A」
  • こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」
  • Mathes EF, et al. “Eczema coxsackium” and unusual cutaneous findings in an enterovirus outbreak. Pediatrics. 2013;132(1):e149-157.
  • Osterback R, et al. Coxsackievirus A6 and hand, foot, and mouth disease, Finland. Emerg Infect Dis. 2009;15(9):1485-1488.
  • Ooi MH, et al. Clinical features, diagnosis, and management of enterovirus 71. Lancet Neurol. 2010;9(11):1097-1105.

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