- 2026年8月6日
- 2026年7月29日
熱中症は翌日も注意。だるさ・頭痛・しびれが続くとき │津かわもと救急・内科クリニック
炎天下での作業や部活動のあと、いったんは涼しい場所で休んで落ち着いた。けれども翌日になっても体が重い、頭痛が抜けない、手足がしびれる——。この時期、当院にはそうした「熱中症のあと」の不調で受診される方が少なくありません。
熱中症は、倒れたその日だけの病気ではありません。体温が下がり、意識がはっきりしていても、体の内側では脱水や電解質の乱れ、腎臓への負担が残っていることがあります。今回は、熱中症のあとに残る症状をどう考え、どのタイミングで医療機関を頼るべきかを整理しました。

1. 体温が正常でも、熱中症は否定できません
「熱がないから熱中症ではない」と考えてしまう方が多いのですが、これは誤解です。
日本救急医学会『熱中症診療ガイドライン2024』では、重症度は体温そのものではなく、症状と意識状態を軸に判断されます。めまい・立ちくらみ・こむら返り・大量の発汗はⅠ度、頭痛・嘔吐・倦怠感・集中力や判断力の低下はⅡ度で、この段階から医療機関の受診が勧められます。深部体温が診断の必須条件になるのは最重症群(Ⅳ度:深部体温40.0℃以上かつ意識障害)であり、それ以外では体温は「正常でもおかしくない」のです。
さらに、来院された時点ではすでに涼しい環境で数時間経過していることがほとんどです。体温は下がっていて当然で、下がったからといって体内で起きたダメージが消えたわけではありません。
ポイント:体温は熱中症の重症度を測る「唯一のものさし」ではありません。
2. 倦怠感や頭痛は、数日後まで残ることがあります
熱中症のあと、しばらく体調が戻らないと感じるのは、決して気のせいではありません。
労作性熱中症・横紋筋融解症を起こした方を6〜12か月追跡した研究では、安静時や運動時の筋症状が約4分の1に、神経学的な症状が約1割に残り、質問票で「強い疲労」に該当した方が約3割にのぼったと報告されています。急性期に神経症状があった方のうち、回復期にも神経学的な後遺症が残る割合は23%という報告もあります。
もちろん、これらは入院を要した重症例のデータです。軽症〜中等症であれば多くは数日で回復します。しかし「翌日以降も残る倦怠感・頭痛・集中力の低下」は、医学的に説明のつく現象だということは知っておいていただきたいと思います。
一方で、症状が改善せずに長引く場合、その原因が熱中症だけとは限りません。夏場の発熱・倦怠感は感染症でも起こりますし、遅れて現れる腎障害や電解質異常が背景にあることもあります。「熱中症のあとだから」と自己判断で様子を見続けるのは、この点で危険です。
3. 体の中で何が起きているのか
熱中症のあとに残る不調の背景には、いくつかの異なるメカニズムがあります。
当院では来院した患者さんに対して、血液検査を行いますが、以下の異常を血液検査で確認しています。
脱水
汗として失われるのは水分だけではありません。循環血液量が減ると、立ちくらみ、頻脈、倦怠感、尿量の減少が起こります。高齢の方は口渇を感じにくく、脱水が進んでも自覚が乏しいことが知られています。
電解質異常
大量の発汗ではナトリウムが失われます。ここに水やお茶だけを大量に補給すると、血液中のナトリウム濃度がさらに薄まり、低ナトリウム血症を招きます。頭痛、吐き気、倦怠感、集中力低下、けいれん——これらは熱中症そのものの症状と見分けがつきません。
カリウムやマグネシウムの異常は、こむら返り、脱力、手足のしびれの原因になります。「しびれが続く」という訴えは、電解質を確認すべきサインの一つです。
腎障害(急性腎障害)
熱中症で入院した患者さんを対象とした大規模研究では、急性腎障害の合併は36%と報告されています。脱水による腎血流の低下に加え、筋肉が壊れて出る横紋筋融解症が腎臓に負担をかけます。筋肉痛が強い、体に力が入らない、尿が濃い茶色〜コーラ色をしている場合は要注意です。
腎障害は、症状が出るより先に採血の数値に現れます。しかも数日遅れて悪化することがあるため、「その日は元気だった」ことは安心材料になりません。
血糖の異常
糖尿病をお持ちの方では、脱水と高血糖が互いを悪化させます。血糖が高いと尿量が増えてさらに脱水が進み、脱水が進むと血糖が上がる——という悪循環です。極端な場合は高浸透圧高血糖状態に至ります。逆に、食欲が落ちて食事量が減っているのに薬やインスリンをいつも通り続けていると、低血糖による倦怠感・冷汗・意識のもうろうを起こします。
糖尿病、腎臓病、心不全、利尿薬を服用中の方は、夏の脱水がそのまま持病の悪化につながります。この時期は特に、自己判断で様子を見ないでください。
4. 水分だけでなく、塩分が必要な場面があります
「水をたくさん飲んでいたのに具合が悪くなった」という方が、毎年必ずいらっしゃいます。
大量に汗をかいた後は、水分と一緒に塩分も補う必要があります。目安として——
- 軽い発汗・室内で過ごしていた場合:水やお茶で構いません
- 大量に汗をかいた場合(屋外作業、スポーツ、長時間の外出):経口補水液、またはスポーツドリンク
- すでに吐き気があり、飲んでも戻してしまう場合:無理に飲ませず受診してください
経口補水液(OS-1など)は、水と電解質が吸収されやすい比率で設計された「治療用」の飲み物です。一方で、ナトリウムを含むため、心不全や腎不全、塩分制限を受けている方が自己判断で大量に飲むのは適切ではありません。この点は必ず主治医にご相談ください。
なお、市販のスポーツドリンクは糖分が多いため、糖尿病の方が大量に飲むと血糖が上がります。経口補水液のほうが糖濃度は低めですが、いずれにせよ量には注意が必要です。
5. 血液検査や点滴を考える目安
以下に当てはまる場合は、採血で電解質・腎機能・血糖・筋逸脱酵素(CK)を確認する意味があります。
検査をおすすめする状況
- 涼しい場所で休み、水分・塩分をとっても症状が改善しない
- 翌日以降も倦怠感、頭痛、微熱が続く
- 手足のしびれ、脱力、強い筋肉痛がある
- 尿の量が明らかに少ない、尿の色が濃い茶色
- 吐き気で水分がとれない
- 高齢の方、糖尿病・腎臓病・心疾患をお持ちの方、利尿薬や降圧薬を服用中の方
- 一人暮らしで、悪化したときに気づいてもらえる人がいない
点滴(輸液)が有効な状況
飲んで補給できるなら、経口補水が第一選択です。点滴が必要になるのは、飲めない・飲んでも追いつかない場合です。具体的には、嘔吐で経口摂取ができない、脱水の程度が強い、電解質異常や腎機能障害が採血で確認された場合などです。輸液の内容は検査結果によって変えるべきもので、「とりあえず点滴」が最善とは限りません。
すぐに救急要請を
- 呼びかけへの反応がおかしい、意識がはっきりしない
- けいれんしている
- 全身が熱いのに汗をかいていない
- まっすぐ歩けない、ふらつきが強い
この段階は救急車を呼ぶべき状況です。ためらわないでください。
6. 回復期に気をつけていただきたいこと
- 回復した当日・翌日の再曝露を避ける。一度熱中症を起こすと体温調節機能が一時的に低下しており、同じ環境で繰り返しやすくなります。
- 運動やスポーツの再開は段階的に。症状が完全に消えてから、軽い負荷で再開してください。
- 持病の薬を自己中断しない。食事がとれない日が続くときは、内容を調整すべきことがあるため必ずご相談ください。
- 睡眠と栄養。回復期の倦怠感は、休養が不十分だと長引きます。
おわりに
熱中症は、涼しい場所で休めば終わり、という病気ではありません。体温が正常でも、意識がはっきりしていても、体の中では脱水や電解質の乱れ、腎臓への負担が続いていることがあります。特に、翌日以降も残るだるさ・頭痛・しびれは、採血で確かめる価値のあるサインです。
当院では血液検査を院内で実施し、その場で結果をご説明したうえで、必要に応じて輸液を行っています。CT検査も院内で可能です。「熱中症かどうかわからないけれど、どうも調子が戻らない」——そうした受診で構いません。夏を安全に乗り切るために、遠慮なくご相談ください。
参考文献
- 日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会.熱中症診療ガイドライン2024.2024年7月.
- Impact of Acute Kidney Injury on Outcomes of Hospitalizations for Heat Stroke in the United States. Diseases. 2020;8(3):28.
- Exertional Heat Stroke and Rhabdomyolysis: A Medical Record Review and Patient Perspective on Management and Long-Term Symptoms. PMC10199157(2023).
- Single-photon emission computed tomography (SPECT) predicted neurological prognosis in heat stroke: A case report. PMC10393623(2023).
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