• 2026年11月5日
  • 2026年10月9日

海外旅行の前に確認したいワクチン

出発前に余裕を持って相談を

海外旅行や出張、留学が決まったら、パスポートや航空券と一緒に確認したいのが予防接種です。

渡航先では、日本では少ない感染症にかかる可能性があります。国や学校によっては、予防接種証明書の提出を求められることもあります。

必要なワクチンは、渡航先だけで決まるものではありません。滞在期間、現地での活動、年齢、持病、これまでの接種歴によって変わります [1]。渡航者が実際にどの程度の頻度で感染するかを示すデータは、病気によって質にばらつきがあり、確かな数字がそろっているものばかりではありません [4]。そのため「この国ならこのワクチン」と一律に決めるのではなく、旅程に合わせて一人ひとり検討します。一人ひとりにカスタマイズするからこそ、時間がかかるため、出発前に余裕をもってご相談ください。

相談はいつから始めればよい?

旅行が決まった時点で、できれば出発の3か月以上前から相談しましょう。

厚生労働省検疫所(FORTH)は、できるだけ出発3か月以上前からの相談を勧めています [1]。米国疾病予防管理センター(CDC)は、少なくとも出発1か月前の受診を勧めています [2][3]。1か月は最低限の目安、3か月は複数回接種のワクチンまで無理なく終えるための目安と考えてください。

早めの相談が必要な理由は2つあります。

  • 複数回の接種が必要なワクチンがある:国内のA型肝炎ワクチンは2〜4週間あけて2回 [9]、狂犬病ワクチンは約1か月で3回の接種が必要です [1]。
  • 接種してすぐに効果が出るわけではない:腸チフスワクチンは接種のおよそ2週間後から効果が現れます [11]。黄熱の接種証明書が有効になるのは、接種の10日後です [1]。

一方、出発が迫っていても、相談をあきらめる必要はありません。 CDCも「渡航前相談に遅すぎることはない」としており、出発の数日前でも受診する意味があります [3]。残された時間でできる接種と、現地での感染予防を確認しましょう。ただし、接種が途中の場合は、十分な予防効果が得られていない可能性があります。

まずは、普段の予防接種を確認しましょう

海外旅行用の特別なワクチンより先に、麻しん・風しん、破傷風、ポリオ、水痘など、普段の予防接種を確認することが基本です。インフルエンザや新型コロナも、年齢や健康状態、接種歴に応じて検討します。

特に確認したいのは麻しん(はしか)です

麻しんは感染力が非常に強く、免疫のない人が家庭内などで接触すると9割以上が感染します [6]。先進国であっても、患者1,000人に1人が死亡するとされています [1]。

国内でも報告が増えています。2026年は第20週(5月20日現在)までに498例が報告され、年齢の中央値は26歳でした。国外で感染したと推定される例の渡航先は、インドネシア、ニュージーランド、インド、ベトナムなどです [5]。渡航先がいわゆる先進国であっても、確認は必要です。

麻しんワクチンは、2回の接種で約97%の予防効果があります [6]。接種回数は生まれた年代によって異なります [7]。

生年月日定期接種の状況
1972年9月30日以前1回も接種していない可能性が高い
1972年10月1日〜1990年4月1日1回のみ
1990年4月2日〜2000年4月1日2回目は特例措置での接種。受けていない方が少なくない
2000年4月2日以降2回

母子健康手帳などで記録を確認し、2回の接種が確認できない場合や、記録がわからない場合は、医師に相談しましょう。接種は出発の2週間前までに済ませるのが目安です [6]。

渡航先や旅行内容に応じて検討するワクチン

以下は代表的な例です。すべての旅行者に、すべてのワクチンが必要なわけではありません。

ワクチン検討する主な場面 [1]接種の目安(国内承認ワクチン)
A型肝炎衛生環境が心配な地域への渡航。短期の観光旅行でも検討します2〜4週間隔で2回。約半年後の3回目で長期の免疫 [9]
B型肝炎血液や体液に接触する可能性がある場合(現地での受診や医療活動、性行為など)3回。完了まで約半年
破傷風野外での活動が多い場合、けがの可能性がある場合接種歴によって異なります
狂犬病動物と接触する機会が多い地域、咬まれた後に医療を受けにくい地域への渡航約1か月で3回
日本脳炎アジアの流行地域への長期滞在、農村部での滞在、屋外活動接種歴によって異なります
腸チフス南アジア、東南アジア、アフリカ、中南米など1回。効果は接種の約2週間後から [11]
髄膜炎菌流行地域への渡航、留学先から証明書を求められる場合、寮などでの共同生活1回
ポリオ流行地域への渡航。1975〜77年生まれの方は免疫が低いことがわかっています接種歴によって異なります
ダニ媒介脳炎流行地域の森林地帯への渡航、野外活動複数回の接種が必要です
黄熱アフリカ・南米の感染リスクがある地域への渡航、入国時に証明書を求められる場合1回。指定機関でのみ接種できます

いくつか補足します。

A型肝炎は、渡航中に感染するワクチンで防げる病気のなかで頻度の高いものの一つです。一般的な宿泊先・食事・旅程の観光旅行でも感染例があります [8]。国内のワクチンは、2回の接種で全員に抗体ができたと報告されています [9]。

腸チフスのワクチンは、2025年6月に国内で初めて発売されました [10]。対象は2歳以上で、接種は1回です。予防効果はおよそ55〜74%とされ、ワクチンだけで完全に防げるわけではありません [11]。飲食物への注意もあわせて必要です。

日本脳炎は、アジアへの渡航者全体でみると発症は100万人に1人未満とまれです。一方で、脳炎を発症すると20〜30%が亡くなり、回復しても30〜50%に神経の後遺症が残ります [14]。国名だけで判断せず、滞在する地域、季節、期間、活動内容から判断します。1か月以上の滞在では接種が勧められ、短期でも農村部での滞在や屋外活動が多い場合は検討します [14]。

黄熱は「接種証明書」の確認も必要です

黄熱では、病気を予防する目的に加えて、入国の条件として予防接種証明書(イエローカード)が必要になる場合があります。最終目的地だけでなく、乗り継ぎも関係します。黄熱のリスクがある国の空港に12時間以上滞在した渡航者に、証明書を求める国が多くあります [15]。

証明書は接種の10日後から有効となり、生涯有効です [1][15]。以前に発行された有効期間10年の証明書も、更新の手続きなしでそのまま生涯有効です [1]。

出発直前の接種では、入国に必要な期限に間に合わないことがあります。また、黄熱ワクチンは検疫所などの指定機関でのみ、予約制で接種しています [15]。当院では接種できませんので、指定機関をご案内します。 入国要件は変更されることがあるため、渡航前に検疫所や渡航先の大使館で最新情報を確認してください。

狂犬病は、接種済みでも咬まれた後の受診が必要です

狂犬病は、発症するとほぼ全員が亡くなる病気です。流行国に滞在する渡航者のうち、狂犬病の恐れがある動物に咬まれる人は、1か月あたりおよそ0.4%(250人に1人)と報告されています。2週間以内の短期旅行の後に発症した例もあります [12]。

出発前に予防接種を受けていても、咬まれたり引っかかれたりした後の処置が不要になるわけではありません。ただし、事前に接種を済ませていれば、咬まれた後のワクチンは2回で済み、免疫グロブリンの注射は不要になります [13]。

海外では、犬や猫、サルなどにむやみに触れないことが大切です。咬まれたり引っかかれたりした場合は、すぐに石けんと流水で傷を15分ほど洗い、現地で速やかに医療機関を受診してください [13]。帰国まで待たないことが重要です。

相談時に準備していただきたいもの

次の情報があると、必要なワクチンと接種日程を検討しやすくなります。

  • 渡航する国・地域と、乗り継ぎを含む旅程
  • 出発日、帰国日、滞在期間
  • 観光、出張、留学、医療活動などの渡航目的
  • 農村部での滞在、屋外活動、動物との接触の予定
  • 母子健康手帳や過去の予防接種記録
  • 持病、服用中の薬、アレルギー、過去のワクチンによる副反応
  • 留学先などから指定された予防接種・証明書の書類

妊娠中の方、妊娠を予定している方、免疫を抑える治療を受けている方は、接種できるワクチンや適切な時期が異なります。必ずお伝えください。

ワクチンと一緒に、現地での予防も

ワクチンで防げる感染症は限られています。食べ物や飲み水に注意すること、虫よけを使うこと、動物との接触を避けることも大切です。渡航先によっては、マラリア予防薬の検討も必要になります。

海外旅行の準備は、体調を守る準備でもあります。

津かわもと救急・内科クリニックの渡航ワクチンは、ワクチンを確保するため予約制です。ご相談の際は、渡航先と出発予定日をお知らせください。必要なワクチンと接種日程を確認し、余裕を持って準備を進めましょう。


参考文献

  1. 厚生労働省検疫所 FORTH. 海外渡航のためのワクチン(予防接種). 2025年7月更新. https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/useful_vaccination.html
  2. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Travelers’ Health: Most Frequently Asked Questions. https://wwwnc.cdc.gov/travel/page/faq
  3. Rosselot G. Last-Minute Travelers. In: CDC Yellow Book 2026. https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/preparing-international-travelers/last-minute-travelers.html
  4. Steffen R, Behrens RH, Hill DR, Greenaway C, Leder K. Vaccine-preventable travel health risks: what is the evidence—what are the gaps? J Travel Med. 2015;22(1):1–12. doi:10.1111/jtm.12171
  5. 国立健康危機管理研究機構(JIHS). IDWR 2026年第20号<注目すべき感染症>麻しん. https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/featured/2026/20/index.html
  6. Goodson JL, Filardo TD. Measles (Rubeola). In: CDC Yellow Book 2026. https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travel-associated-infections-diseases/measles-rubeola.html
  7. 日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会ワクチンチーム. こどもとおとなのワクチンサイト:年齢でみる不足している可能性があるワクチン. https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=180&pv=
  8. Hofmeister MG, Weng MK. Hepatitis A. In: CDC Yellow Book 2026. https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travel-associated-infections-diseases/hepatitis-a.html
  9. 福島慎二, 濱田篤郎. トラベラーズワクチンとしてのA型肝炎ワクチン. 病原微生物検出情報(IASR). 2015;36:10–11. https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/5323-dj4198.html
  10. サノフィ株式会社. 腸チフスワクチン「タイフィム ブイアイ注シリンジ」新発売(プレスリリース). 2025年6月30日. https://www.sanofi.co.jp/assets/dot-jp/pressreleases/2025/250630.pdf
  11. 日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会ワクチンチーム. こどもとおとなのワクチンサイト:腸チフスワクチン. https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=137
  12. Gautret P, Parola P. Rabies vaccination for international travelers. Vaccine. 2012;30(2):126–133. doi:10.1016/j.vaccine.2011.11.007
  13. World Health Organization. Rabies vaccines and immunoglobulins: WHO position, April 2018. https://cdn.who.int/media/docs/default-source/immunization/position_paper_documents/rabies/pp-rabies-summary-2018.pdf
  14. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Japanese Encephalitis. In: CDC Yellow Book 2026. https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travel-associated-infections-diseases/japanese-encephalitis.html
  15. 厚生労働省検疫所 FORTH. 黄熱(Yellow Fever)に注意しましょう! https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/yellow_fever_certificate.html

※接種回数・間隔は、日本で使用する製剤と接種歴に基づいて判断します。海外の接種スケジュールを、そのまま適用できるとは限りません。

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