- 2026年9月24日
- 2026年7月29日
集中治療後症候群(PICS)とは?ICU退室後に起こる心身の不調と対策

重い病気や大きな手術を乗り越え、集中治療室での治療を終えたあと、患者さんや家族は「命が助かった」という大きな安心を得ます。しかし、退院した時点で心身がすぐに元の状態へ戻るとは限りません。集中治療室での経験は、体力、記憶、気分、睡眠、日常生活に長く影響することがあります。
集中治療後症候群、いわゆるPICSは、救命医療の後に続く回復の課題として注目されています。退院後の疲れや不安を単なる「病み上がり」と片づけず、身体、認知、こころの変化をあわせて見ていくことが大切です。
集中治療後症候群(PICS)とは
集中治療後症候群(PICS)とは、ICU入室中、ICU退室後、または退院後に起こる身体機能、認知機能、メンタルヘルスの障害を指します。英語のPost Intensive Care Syndromeを略した言葉です。具体的には、筋力の低下、強い疲労感、息切れ、記憶力や集中力の低下、不安、抑うつ、不眠などがみられます。
PICSは、もともとの病気による後遺症だけを意味する言葉ではありません。敗血症、重症肺炎、心不全、大きな手術後の集中治療などをきっかけに、入院前にはなかった不調が出ることがあります。また、患者さんを支える家族にも不安や抑うつが生じることがあり、家族への影響はPICS-Fと呼ばれます。
PICSの原因
PICSの原因は1つに絞れるものではありません。大きく関わるのは、重症疾患そのものによる全身への強い負担です。敗血症や重症肺炎では炎症が全身に広がり、筋肉、神経、脳、心肺機能に影響します。低酸素、血圧低下、臓器障害、栄養不足が重なると、短い入院期間でも体力や認知機能が低下しやすくなります。
ICUでの治療や環境も原因になります。人工呼吸器による管理、長い安静、深い鎮静、せん妄、痛み、睡眠リズムの乱れ、昼夜がわかりにくい環境は、心身に負担をかけます。高齢、フレイル、糖尿病、慢性腎臓病、心疾患、呼吸器疾患、低栄養がある人では、PICSが長引きやすい傾向があります。
身体機能の障害
PICSでよくみられるのが、筋力の低下です。ICUで安静が続くと筋肉量が急速に減少し、強い炎症や栄養不足が加わることで、筋肉だけでなく神経にも影響が及ぶことがあります。その結果、手足に力が入りにくい、立ち上がれない、歩行が不安定になる、階段がつらいといった症状が出ます。
こうした変化は、退院後の暮らしにそのまま響きます。食事、入浴、着替え、トイレ、買い物、通院など、これまで自然にできていた動作が負担になります。息切れや動悸が続く場合には、心不全、呼吸器疾患、貧血、薬の影響などが隠れていることもあります。体力低下だけと考えず、内科で原因を確認することが大切です。
認知機能の障害
PICSでは、記憶力や集中力の低下が起こることがあります。退院後に、会話の内容を忘れやすい、書類の手続きが難しい、薬の管理に不安がある、考えがまとまりにくいと感じる人もいます。これは本人の努力不足ではなく、重症疾患やICU治療が脳に負担をかけた結果として起こることがあります。
特にICUせん妄は、認知機能の低下と関係します。せん妄では、意識がぼんやりする、時間や場所がわからない、幻覚を見る、落ち着かない、反応が乏しくなるなどの変化が起こります。退院後も回復に時間がかかることがあり、服薬管理や生活上の判断に家族や医療者の支援が必要になる場合があります。
メンタルヘルスの障害
ICUでの治療は、患者さんにとって強いストレスを伴う経験です。人工呼吸器の苦しさ、痛み、意識が混乱したときの記憶、機械音、病状悪化への恐怖などが、退院後にも残ることがあります。その結果、不安、抑うつ、不眠、悪夢、医療機関への恐怖感などにつながります。
家族にも大きな負担がかかります。突然のICU入室、生命の危機に関する説明、治療方針の意思決定、仕事や家庭の調整、費用面の不安が重なり、家族自身が不眠や抑うつを抱えることがあります。PICSは患者さんだけでなく、家族全体の回復を考える必要がある状態です。
内科での早期発見
PICSの発見には、退院後の外来診療が重要です。内科では、発熱、息切れ、むくみ、食欲低下、体重減少、血糖や血圧の変動、腎機能や肝機能の変化を確認します。同時に、歩行能力、睡眠、気分、記憶力、服薬状況、家族の負担なども丁寧に見ていきます。
退院後の不調は、PICSだけで説明できるとは限りません。感染の再燃、心不全、慢性呼吸器疾患の悪化、貧血、薬剤の副作用、低栄養、脱水、電解質異常が隠れていることもあります。必要に応じて、リハビリテーション科、精神科、薬剤師、管理栄養士、訪問看護と連携して支援します。
PICSの予防と回復支援
PICSの予防には、ICUにいるときからの対応が重要です。病状が許す範囲で鎮静を深くしすぎないこと、せん妄を早く見つけること、早期離床やリハビリを行うこと、痛みを管理すること、睡眠リズムを整えること、家族とのつながりを保つことが、PICSの軽減につながります。
退院後は、焦らず回復を進めることが大切です。PICSの回復には数週間から数か月、場合によってはさらに長い時間がかかります。主治医と相談しながら、栄養、運動、睡眠、服薬、基礎疾患の管理を整え、できることを少しずつ増やしていくことが、生活の再建につながります。
津市でPICS(集中治療後の後遺症)診療なら津かわもと救急・内科クリニック
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