- 2026年8月27日
- 2026年8月11日
花粉症を「体質から」変える治療 │津かわもと救急・内科クリニック

舌下免疫療法を始めるなら、今この季節です
毎年2月になると、目のかゆみ、止まらない鼻水、集中できない頭の重さ。抗ヒスタミン薬でしのぎながら、「来年こそは何とかしたい」と思ったまま、また春が来てしまう ― そんな方は少なくないと思います。
その「来年こそ」に手をつけられるのが、実は今、この暑い時期です。
スギ花粉症に対する舌下免疫療法は、花粉が飛んでいる1月〜5月には新しく始めることができません。6月から12月までが、新規に治療を開始できる唯一の期間です。今年の夏に開始すれば、来年春のシーズンには効果を実感しはじめる方が多くいらっしゃいます。
当院では、スギ花粉症(シダキュア®)およびダニによる通年性アレルギー性鼻炎(ミティキュア®)の舌下免疫療法を行っています。本稿では、治療の仕組みと科学的根拠、実際の流れ、費用、注意点を、できるだけ正確にご説明します。
1. 対症療法と、舌下免疫療法は「別の治療」です
抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬は、すでに起きているアレルギー反応を抑える対症療法です。効果は確実で即効性がありますが、薬をやめれば症状は戻ります。毎年、花粉が飛ぶたびに同じことを繰り返すことになります。
これに対して舌下免疫療法(SLIT: sublingual immunotherapy)は、アレルギー反応そのものが起こりにくい免疫状態へ作り変える治療です。現在、スギ花粉症に対して「自然経過を変えうる(disease-modifying)」ことが臨床試験で示されている唯一の治療法です。
■ どういう仕組みで効くのか
舌の裏側の粘膜には、免疫の「窓口」として働く樹状細胞が豊富に存在します。ここに毎日ごく少量のアレルゲンを繰り返し届けると、免疫系はそのアレルゲンを「敵ではない」と学習し直します。具体的には、
- 制御性T細胞(Treg)が誘導され、IL-10やTGF-βを介してアレルギー反応にブレーキがかかる
- アレルゲンに結合するIgG4(遮断抗体)が増え、IgEがアレルゲンを捕まえる前に横取りする
- 治療を長く続けると、原因となる特異的IgE抗体そのものが減少し、肥満細胞・好塩基球の反応性も低下する
という変化が積み重なります。ワクチンで免疫を「立ち上げる」のとは逆に、暴れている免疫を「なだめて教育し直す」治療とイメージしていただくと近いかもしれません。この学習には時間がかかります。だからこそ、毎日・数年単位の継続が必要になります。
2. 効果はどこまで期待できるのか ― 根拠となるデータ
「本当に効くのか」は当然のご質問です。国内外の主な臨床試験の結果をご紹介します。
■ 症状とお薬の量が、はっきり減る
国内で行われたスギ花粉舌下錠の第II/III相試験では、プラセボ群と比較して花粉飛散期の鼻・眼症状スコアと薬剤スコアが有意に改善し、治療期間が長いほど効果が大きくなることが示されています(文献3)。
■ 治療をやめたあとも効果が続く
3年間の治療後に投薬を中止しても、その後2年間にわたって症状の改善が維持されたことが報告されています(文献4)。これが「体質を変える治療」と呼ばれる根拠です。単なる長期の対症療法ではありません。
■ ヒノキ花粉にも効く可能性がある
スギとヒノキのアレルゲンには交差反応性があり、スギ舌下錠がヒノキ花粉症の症状も抑えたという報告があります(文献5)。三重県ではスギに続いてヒノキが4月まで飛びますので、これは実際的に大きな意味を持ちます。『鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(改訂第10版)』にも、一部の患者さんでヒノキ花粉症への効果がみられる旨が記載されました。
■ お子さんでは、喘息の発症予防も期待される
小児を対象とした欧州の5年間試験(GAP試験)では、舌下免疫療法を受けた群で喘息症状と喘息治療薬の使用が有意に少なくなりました(文献6)。アレルギー性鼻炎から気管支喘息へ進展する「アレルギーマーチ」に介入しうる、という点は小児で特に重要です。
| 正直にお伝えしておきたいこと 効果には個人差があり、すべての方の症状がゼロになるわけではありません。「症状が明らかに軽くなり、飲む薬が減った」という水準の改善が現実的なゴールです。 それでも、毎年3か月間の生活の質が変わるインパクトは決して小さくありません。 |
3. 治療を受けられる方・受けられない方
■ 対象となる方
- 血液検査(特異的IgE)または皮膚テストで、スギ花粉あるいはダニのアレルギーが確定診断されている方
- 5歳以上の方(年齢の上限はありません。ご高齢の方も適応があります)
- 毎日、数年間、服薬を続けられる方
■ 治療を受けられない・慎重な検討が必要な方
- 重症の気管支喘息がコントロールされていない方(禁忌です)
- 悪性腫瘍、全身性ステロイド薬を要する自己免疫疾患をお持ちの方
- 重い心疾患のある方、β遮断薬を服用中の方
- 妊娠中の方(継続は可能ですが、新規開始は避けます)
- 口内炎や抜歯後など、口の中に傷がある時期(治るまで一時休薬します)
血液検査でアレルギーが陽性でも、実際の症状と一致していなければ適応になりません。「検査が陽性であること」と「その花粉で症状が出ていること」は別だからです。診察の際に確認させていただきます。
4. 実際の流れ(当院の場合)
■ ① 初診 ― 診察と血液検査
症状の経過を伺い、鼻の所見を確認したうえで採血します。2年以内のアレルギー検査結果をお持ちの方は、それを持参いただければ再検査は不要です。結果は約1週間で出ます。
■ ② 2回目 ― 初回服用(院内で30分お待ちいただきます)
適応を確認し、治療内容と副反応についてご説明したうえで、1錠目は必ず院内で服用していただきます。アレルギー反応が出ないことを確認するため、服用後30分間、院内で経過を観察します。この日は診療終了の1時間以上前にご来院ください。
■ ③ 最初の1週間 ― 少量から
スギは2,000JAU錠、ダニは3,300JAU錠を毎日1回、舌の下に1分間保持してから飲み込みます。服用後5分間はうがい・飲食を控えてください。
■ ④ 2週目以降 ― 維持量へ
スギ5,000JAU、ダニ10,000JAUに増量し、以後はこの量を毎日続けます。月1回程度の受診で経過を確認しながら処方を継続します。
■ ⑤ 3〜5年間、継続
治療期間の目安は3年以上、可能であれば5年です。2年で中止すると効果の持続が乏しいことがわかっているため、「3年は続ける」という前提で始めていただくことをお願いしています。
なお、ダニの舌下免疫療法(ミティキュア®)は季節を問わず、一年中いつでも開始できます。通年性の鼻づまり、朝のくしゃみ、ハウスダストで悪化する症状にお心当たりのある方は、この季節にこだわる必要はありません。スギとダニの両方に治療が必要な場合は、1か月以上あけて順に導入します。
5. 副反応について
多いのは、口の中の局所症状です。口の中のかゆみ、舌の下の腫れ、のどの違和感、唇の腫れなど。治療開始から1か月以内に起きることが多く、多くは軽度で、継続しているうちに自然に軽減していきます。
まれですが、アナフィラキシーの報告があります。頻度は極めて低いものの、ゼロではありません。だからこそ初回は院内で服用していただきます。ご自宅での服用中に、じんましんが全身に広がる・息苦しい・強い腹痛や嘔吐といった症状が出た場合は、服用を中止してすぐにご連絡ください。
| 服用前後2時間は、激しい運動・入浴・飲酒を避けてください 血流が増えることでアレルゲンの吸収が高まり、副反応が出やすくなるためです。 服用は毎日同じタイミング(朝が習慣化しやすくおすすめです)にしていただくと、飲み忘れが減ります。 |
6. 費用の目安
保険適用です。3割負担の方で、
- お薬代・診察料・調剤料を合わせて、月あたりおおむね1,500〜2,500円程度
- 初回のアレルギー血液検査は、項目数によりますが3,000〜5,000円程度
が目安です(薬価改定や検査項目数により変動します)。3年間の総額としては、毎シーズン購入していた市販薬や、毎年の通院・投薬の費用と比べて、決して割高な治療ではありません。
7. ご注意 ― シダキュア® の供給状況について
2023年以降、スギ花粉舌下錠の導入用(2,000JAU)が全国的に限定出荷の状態が続いています。製造元による増産で状況は徐々に改善していますが、2026年時点でも完全な安定供給には至っておらず、当院でも新規に開始できる人数に限りがあります。すでに治療を継続されている方の維持量(5,000JAU)の供給は問題ありません。
| 新規開始をご希望の方は、お早めにご相談ください 開始可能な期間が12月までと限られていること、薬剤の確保に時間がかかる場合があることの両方から、夏のうちに動いていただくのが確実です。 |
8. よくあるご質問
Q. 効果はいつごろ実感できますか?
A. 多くの方は、治療開始の翌シーズン(初年度の春)に「去年より楽だ」と感じられます。2年目、3年目とさらに効果が安定していきます。
Q. 飲み忘れたらどうすればよいですか?
A. 気づいた時点で当日中であれば服用してください。1日飛んでしまった場合も、翌日から同じ量で再開して構いません。数日以上あいた場合はご相談ください。
Q. 治療中も、症状が出たら薬を飲んでよいですか?
A. はい。舌下免疫療法中も抗ヒスタミン薬などの併用は可能です。むしろ最初の1〜2シーズンは併用しながら、徐々に減らしていくのが一般的です。
Q. 子どもでもできますか?
A. 5歳以上であれば可能です。錠剤を1分間口の中に保持できるかどうかが実際の目安になります。小児では、将来の喘息発症を抑える効果も期待されています。
おわりに
舌下免疫療法は、3年から5年という時間を要する、根気のいる治療です。特効薬ではありません。
しかし、毎年春になると同じ薬を飲み、同じようにつらい思いをする ― その循環そのものを断ちうる治療は、現在のところこれ以外にありません。そして、その最初の一歩を踏み出せるのは、花粉が飛んでいない今の季節だけです。
「自分は適応になるだろうか」「続けられるか自信がない」といったご相談だけでも構いません。診察のうえ、一緒に判断させていただきます。
診療のご案内
津かわもと救急・内科クリニック
〒514-0817 三重県津市大里窪田町字下沢2862-1 TEL 059-253-2119
診療日:火・木・金・土・日 (休診:月・水)
※ 初回服用の日は院内で30分の経過観察が必要です。診療終了の1時間前までにご来院ください。
※ 平日にお仕事のある方も、日曜日に開始・継続していただけます。
参考文献
1. 日本アレルギー学会・日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会. 鼻アレルギー診療ガイドライン ―通年性鼻炎と花粉症― 2024年版(改訂第10版)
2. Gotoh M, et al. Long-term efficacy and dose-finding trial of Japanese cedar pollen sublingual immunotherapy tablet. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019;7:1287-1297.
3. Yonekura S, et al. Treatment duration-dependent efficacy of Japanese cedar pollen sublingual immunotherapy: evaluation of a phase II/III trial over three pollen dispersal seasons. Allergol Int. 2019;68:494-505.
4. Yonekura S, et al. Disease-modifying effect of Japanese cedar pollen sublingual immunotherapy tablets. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021;9:4103-4116.
5. Yonekura S, et al. Efficacy of Japanese cedar pollen sublingual immunotherapy tablets for Japanese cypress pollinosis. J Allergy Clin Immunol Glob. 2022.
6. Valovirta E, et al. Results from the 5-year SQ grass sublingual immunotherapy tablet asthma prevention (GAP) trial. J Allergy Clin Immunol. 2018;141:529-538.
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針に代わるものではありません。