コロナ禍での気づきから、集中治療後の回復支援へ

コロナ禍での気づきから、集中治療後の回復支援へ

私は2019年に三重大学救命救急・総合集中治療センターの集中治療部門長に就任してから、コロナ禍を通じて三重県内の多くの人工呼吸器が必要な呼吸不全患者の治療に携わってきました。2025年まで日々最前線の現場で集中治療に従事する中で、患者さんやご家族から寄せられた悩みに共通する問題がありました。
それは「ICUを無事に退院できたが、体調が回復せず、日常生活や仕事に戻れない」という深刻な悩みです。

PICSとは?

Post Intensive Care Syndrome(集中治療後症候群)の頭文字をとったもので、PICS(ピックス)とは、集中治療室(ICU)での治療後に生じる心身の後遺症です。以下のような症状が退院後にも長期間続くことがあります。

  • 身体的障害(筋力低下、呼吸困難、慢性痛など)
  • 認知機能の低下(集中力の低下、記憶障害)
  • 精神的障害(不安、抑うつ、PTSDなど)

さらに、患者さんだけでなく、ご家族にもストレスや疲労がかかる「PICS-Family」の問題も重要です。

PICSを発症しやすい患者さん

  • 人工呼吸管理が48時間以上続いた方
  • 敗血症や多臓器不全、ICUせん妄を経験した方
  • 高齢者や女性の方

対応する症状例

当院のPICS外来で対応する症状例は以下のようなICU退室後の患者さんに対応可能です。

【身体的な不調の典型例】
  • 60代男性:重症コロナ肺炎後に歩行困難となり、生活に支障を感じている
  • 50代女性:感染症治療後も倦怠感や痛みに悩み、職場復帰できない
【認知機能・精神面の問題の典型例】
  • 40代男性:膵炎の治療をICUで行い無事に治療後、業務中のミスが増え、仕事に支障を来している
  • 60代女性:入院後から気分が沈み、日常生活に意欲が持てない
【PICS-Family(ご家族の支援)の典型例】
  • 40代男性:退院後のお母さまの介護に疲れ果て、心身の不調、不眠を訴えている など

なぜ今、PICS外来(=集中治療後サポート外来)が必要なのか?

集中治療後症候群(PICS)は、国内でも深刻な医療課題とされています。しかし、2021年に行われた調査によると、PICSに特化した外来を開設している医療機関はわずか4%、ICU退室患者のフォローアップ率も20%未満です。
当院では、この現状を真摯に受け止め、日本国内でも数少ないPICS専門外来を三重県に開設しました。集中治療の経験を活かし、原因検索を行った後、内科・麻酔科治療による身体的苦痛の軽減に加え、リハビリテーション支援、栄養管理を視野に入れた心身の回復を多面的にサポートしていきます。

回復後の不安や不調、我慢せずにご相談ください

PICSの症状は「もう退院したのだから、頑張るしかない」と多くの患者さんが我慢しがちですが、適切な診療により大きく改善する可能性があります。患者さんご本人だけでなく、ご家族のケアも含めて医療と生活の橋渡しとなる外来を目指していきます。
どうぞお気軽にご相談ください。共に回復への一歩を歩んでまいりましょう。