臨床の現場から生まれる問いを「未来の医療」に

臨床の現場から生まれる問いを「未来の医療」に

海外では、開業医として日中は診療を行いながら、夜間や休日に研究を続ける「臨床・研究医」が多く活躍しています。
当院もその精神に倣い、日々の診療から得られる気づきを、研究へとつなげることを大切にしています。
私たちは、最新の医学的知見を患者さんの治療に還元することを目指し、臨床・研究・教育の三位一体の取り組みを続けています。特に当院で治療をおこなう集中治療後症候群の患者さんにはまだ未解明の問題が多く存在します。

【院長およびスタッフの研究テーマ】
~科学的根拠に基づいた医療で、地域と未来に貢献します~

当院では、日々の臨床から生まれる問いを大切にし、地域医療に根ざしながらも、学術的な研究活動を継続しています。

主な研究テーマ

  1. 敗血症・COVID-19に関する研究
    トロンボモジュリンと白血球インテグリンの相互作用を通じて、敗血症性DICの炎症・凝固メカニズム制御に挑む基礎・臨床研究
  2. 集中治療後症候群(PICS)と免疫抑制
    ICU退室後の免疫機能低下="免疫麻痺"のメカニズム解析
  3. 医療従事者の幸福度とチーム構造
    対面コミュニケーション量とチームの社会ネットワークが患者さんの予後や満足度に与える影響を解析
  4. AIを用いた急変予測モデルの構築
    機械学習を活用した、緊急気道確保困難やICU認知機能低下のリスク予測
  5. 在宅医療における急変リスクの可視化
    PD-L1と心停止後脳症の関連に着目した、在宅急変の予測モデル開発
  6. 敗血症とICUせん妄における免疫・神経の連関
    ILC2と好酸球の相互作用による、せん妄発症メカニズムの解明

今後も、科学的根拠に基づく医療の発展と、地域に根ざした臨床応用を両立させる研究に取り組んでまいります。

詳細な研究実績はこちら

今後も、現場に根ざした研究から得られた知見を、地域医療や集中治療、救急医療の質の向上へと還元してまいります。

川本英嗣 院長 主要業績(主要論文の要約と臨床への応用)

以下、主要な研究業績をまとめました。これらの研究は「救急」「内科」、そして集中治療後の回復を支える「PICS(集中治療後症候群)外来」の診療基盤となっています。

【2012年】自己免疫疾患における新しい治療戦略の提言

タイトル
Anti-Integrin Therapy for Multiple Sclerosis 1
発表年度
2012年
概要
免疫細胞の移動を制御する「インテグリン」分子を標的とした、多発性硬化症(自己免疫疾患)の治療メカニズムと、その臨床における安全管理(リスクマネジメント)の重要性を体系化したレビュー論文です。
新規性と臨床への応用
新規性: 炎症部位へ特定の免疫細胞が浸潤する仕組みを阻止する「分子標的療法」の理論的根拠を整理しました。
当院での応用:【内科・救急】喘息やアレルギー、自己免疫疾患などの炎症性疾患において、「どの分子が炎症を悪化させているか」という分子レベルの視点に基づいた精密な診断に活かされています。

【2016年】血管内の過剰な炎症を抑える新メカニズムの発見

タイトル
LFA-1 and Mac-1 integrins bind to the serine/threonine-rich domain of thrombomodulin
発表年度
2016年
概要
血管を守るタンパク質「トロンボモジュリン」が、白血球の過剰な接着を直接抑える新しい「炎症のブレーキ」としての役割を分子レベルで解明しました。
新規性と臨床への応用
新規性: トロンボモジュリンの特定の領域(ドメイン3)が、白血球の接着分子と直接結合することを発見しました。
当院での応用:【救急・内科】】 敗血症(重症感染症により引き起こされる免疫調整不全)において、全身の血管で起こる過剰な炎症を食い止め、臓器不全を最小限にするための治療方法として臨床で使用されています。

【2019年】血液中の微小粒子「細胞外小胞」による重症化予測

タイトル
Integrin and PD-1 Ligand Expression on Circulating Extracellular Vesicles in Systemic Inflammatory Response Syndrome and Sepsis
発表年度
2019年
概要
血液中を流れる微小なカプセル「細胞外小胞」の表面にある分子を分析し、敗血症の重症化や臓器不全(低血圧、腎機能障害)と相関する特定の指標を特定しました。
新規性と臨床への応用
新規性: 細胞外小胞表面の「β2インテグリン」や「PD-L1/PD-L2」が、全身性炎症の病態を反映することを突き止めました。
当院での応用:【救急・内科】従来の検査では捉えきれない、体内の微細な変化を把握し、重症化リスクが高い患者さんを早期に見極めるための科学的根拠となっています。

【2019年】敗血症治療薬の抗炎症効果の解明

タイトル
Anti-adhesive effects of human soluble thrombomodulin and its domains
発表年度
2019年
概要
実際の医療現場で使用されている治療薬(可溶性トロンボモジュリン)が、白血球が血管に張り付く現象を抑え、組織ダメージを防ぐメカニズムを実験的に証明しました。
新規性と臨床への応用
新規性: 薬剤のどの部分が抗炎症作用に寄与しているかを特定し、効果的な投与方法への知見を提供しました。
当院での応用:【救急】重症の炎症を伴う急患に対し、エビデンスに基づいた最適な薬剤選択を行い、早期回復を目指す診療に直結しています。

【2020年】ICUにおけるチーム医療の可視化と多職種連携

タイトル
Social Network Analysis of Intensive Care Unit Health Care Professionals Measured by Wearable Sociometric Badges
発表年度
2020年
概要
ウェアラブルセンサーを用い、集中治療室(ICU)内のスタッフ間のコミュニケーションを客観的に計測しました。看護師がチームの中心となって情報共有を行うことで、重症患者のケアを支えていることを可視化しました。
新規性と臨床への応用
新規性: 医療スタッフの「動き」や「対話」を数値化し、強力なチーム連携が患者さんの生命予後改善に不可欠であることを科学的に証明しました。
当院での応用:【救急・PICS外来】当院でも医師一人に頼らない、看護師や専門スタッフ(クラーク、臨床検査技師)などが密に連携する「チーム医療」を実践しています。多角的な視点で患者さんの回復を支えます。

【2021年】心停止後の免疫学的混乱の解明

タイトル
Elevated Plasma Soluble PD-L1 Levels in Out-of-Hospital Cardiac Arrest Patients
発表年度
2021年
概要
院外心停止から蘇生した患者さんの血液中で、免疫抑制分子「sPD-L1」が急増していることを発見しました。これがその後の臓器不全と密接に関連していることを明らかにしました。
新規性と臨床への応用
新規性: 心停止後の全身状態の悪化が、急激な免疫学的混乱(免疫疲弊)によって引き起こされることを突き止めました。
当院での応用:【救急・PICS外来】蘇生に成功した後も続く、脳機能障害や精神的・身体的ダメージ(PICS)のメカニズムを理解し、長期的なケアに繋げています。

【2021年】次世代診断技術「エクソソーム解析」の確立

タイトル
Methods to Study Integrin Functions on Exosomes / The Lectin-Like Domain of Thrombomodulin Inhibits β1 Integrin-Dependent Binding
発表年度
2021年
概要
エクソソームの機能を解析するための最新手法を確立するとともに、血管保護因子(トロンボモジュリン)の特定の領域が、細胞同士の「接着」を制御する新たな仕組みを報告しました。
新規性と臨床への応用
新規性: エクソソームを通じた細胞間コミュニケーションを精密に制御する可能性を示しました。
当院での応用:【内科】将来的な精密医療を見据え、分子レベルでの体調変化を理解した、一人ひとりに最適な医療提供を目指します。

【2025年】AIを用いた「せん妄」の早期予測

タイトル
Machine Learning-Based Prediction of Delirium and Risk Factor Identification in Intensive Care Unit Patients With Burns
発表年度
2025年
概要
重症患者さん(重症熱傷患者)が発症しやすい「せん妄(急激な意識障害)」を、AI(機械学習)を用いて入室初日のデータから高精度に予測するモデルを開発しました。
新規性と臨床への応用
新規性: 膨大な臨床データから、人間では気づきにくい「発症の兆候」をAI(AUC 0.906の高精度)で特定しました。
当院での応用:【PICS外来】ICU退院後の認知機能低下の大きな原因となる「せん妄」を予測・予防することで、退院後の生活の質を支え、後遺症の軽減に努めています。